移住に関するさまざまなテーマのトークをお届けする「移住ってどう?」。今回は、地域の慣習やしきたりなどをまとめた「集落の教科書」を2018年に制作した石川県七尾市の高階(たかしな)地区(人口約千人)を訪問。制作の経緯や反響についてお聞きしました。
宮崎 𠮷春(よしはる)さん
石川県七尾市高階地区出身。七尾市たかしな地区活性化協議会会長。
坂口 初男(はつお)さん
高階地区出身。七尾市高階地区コミュニティセンター長。空き家の情報管理を担う。
高橋 雅人(まさと)さん
七尾市地域おこし協力隊(高階地区)。2021年に福井県から移住。
聞き手:白川村役場観光振興課/一般社団法人ホワイエ
「集落の教科書」制作の経緯
高階地区の「集落の教科書」では、これまで“暗黙の了解”となりがちだった地域のルールを明文化し、まとめています。どんなきっかけで制作されたのでしょうか?
宮崎:前任の地域おこし協力隊の一人が京都府南丹市の「集落の教科書」を紹介してくれたことがきっかけです。地域の魅力だけじゃない、ありのままを伝えているところが良くて、高階地区でも作ることになりました。
白川村にも村民の助け合いである“結”など、地域で明文化されていないルールがたくさんあります。「集落の教科書」では、あいさつ回りから町会費、葬式などかなり細かな情報が掲載されていますが、制作期間にはどのくらいかかったのでしょうか?
坂口:地域の課題に住民が協力して取り組むため、七尾市助成金を活用して、2018年の1年間で作り上げました。
宮崎:6月には南丹市で教科書の制作に関わったNPOの方に「集落の教科書」に対する、住民向けの説明をしてもらいました。夏休みには、能登のまちづくり会社「御祓川(みそぎがわ)大学」を通じて募集した、県外の大学生2人がインターンとして集落を回って、ヒアリングをしてくれましたね。
地域の住民ではない人がヒアリングすることに、特に抵抗はなかったでしょうか?
坂口:住民には、事前にヒアリングについて伝えていました。若い人が熱心に話を聞いてくれるからか、喜んで話してくれましたよ(笑)。
高階地区の住民は移住に対して好意的な雰囲気なんですね。
坂口:昔はそれほど移住に前向きではなかったのですが、初期の移住者の方たちが地域でとてもよく動いてくれて、イメージが良くなりました。高階地区では13年間で36人が移住していて、今では「移住の里」と言われることもあります。
集落の教科書の反響は?
「集落の教科書」に対する、移住者や住民の反応はいかがでしょう?
高橋:私は2021年に地域おこし協力隊として福井県から移住しました。当初、妻は移住に不安があったのですが、「集落の教科書」を通じて事前に地域を知ることができました。それに、こうした冊子を作る地域なら移住者を受け入れてくれそう、という印象を持ったので、高階地区を移住先に決めました。
宮崎:住民の反応も意外と大きくて、隣町でもルールが違うことを知ったり、自分の地域のしきたりを改めて考え直すきっかけにもなりましたね。
坂口:「集落の教科書」を見て移住した人はまだほとんどいないですけど、自治体からの視察は多いです。2020年には情報を更新して第二版を発行しました。
白川村でも地区によって組織の体制や行事、会合の頻度などはかなり違っています。人口が減り、高齢化が進む中で、他の地区を参考にしながらこれまでのやり方を見直すタイミングが来ているのかもしれません。
移住施策に取り組むことは仲間を増やすこと
宮崎:高階地区も小学校が廃校になったり、コロナで地域の行事が存続できなくなったりと課題がたくさんあります。危機感を持って地域のことに取り組まないといけないですね。
坂口:高階地区は、特徴的な特産物や産業、人が集まるような自然はありませんが、人情に厚いまち。今後も人口の増加というより“仲間を増やす”という想いで、地域や移住の取組みを進めたいです。
高階地区では、住民主導で移住者の受け入れ態勢が作られていることが印象的でした。今後は白川村でも、住民や事業者、行政が協力しながら移住者を受け入れる態勢を整え、移住施策に取り組んでいく必要があるかもしれません。
高階地区のみなさま、ありがとうございました!
今回の会場
旧高階小学校を活用した高階地区コミュニティセンター。地域の行事やサークル活動など、さまざまな住民活動の拠点となり、暮らしの困りごとの相談にも対応している。