自然と人、モノが交わる土地で開いた念願の宿
2023年7月、白川村御母衣(みぼろ)地区に誕生した「サルガバンバ」。
“温泉ホステル&発酵レストラン&ガレージサウナ”という新たなかたちの拠点を営むのは、愛知県出身の稲葉健治さん、翔子さんご夫妻です。
健治さんは13年のサラリーマン生活ののち、ダイニングバーの店長を務めていました。一方、翔子さんは身体に優しいスパイス料理を提供する店に勤めていました。
幼少期から国内外を巡り、いつか自分の宿を開きたい、と夢を持っていた健治さん。2021年の暮れ、同じ想いを抱いていた白川村の友人にかつて旅館だった空き家を紹介されると、豊かな森や川、人やモノが交わる三叉路という立地が気に入り、お二人は移住を即決。2022年の夏から宿の工事に着手しました。
日本中を旅する中で出会った大工や外構職人、クロス職人、電気工事士といった仲間の力を借り、時には寝袋で寝泊まりしながら、ほぼDIYで作業を進めます。
御母衣ダムで見つけた流木や、美濃焼の器やタイル、トチの木といった岐阜にゆかりのあるものと、自分たちが築いてきたつながりの融合によってできあがった建物は、二人のセンスが光るのはもちろん、それぞれにストーリーが込められています。こうして約1年かけて完成したサルガバンバは、2023年7月にオープンに漕ぎ着けました。
いくつもの目的がある場所で、多様な人が混ざり合う
サルガバンバの客室は全部で3部屋。ミニマムで洗練された空間で、大きな窓からは自然を間近に感じられます。繋がりのあるyggpranksさんが作成したひょうたんライトに明かりを灯せば、幻想的な雰囲気に様変わり。華美な装飾やサービスはありませんが、気持ちよく過ごせる場所となっています。
大白川温泉の源泉掛け流しの露天風呂は貸し切り制。春夏秋冬それぞれの季節の移ろいを感じながら、心ゆくままにのんびりとくつろげます。シャンプー、トリートメント、ボディーソープは生分解率95%のオリジナルのオーガニックシリーズを備え付けていて、川の上流に住むものとして環境への配慮も欠かしません。
2023年10月にはサウナも完成。元々解体予定だったガレージをおもしろく活用したいとできあがった薪ストーブのサウナは、ヨモギ水のロウリュも楽しめます。
さらに、入り口近くには物販スペースも。同じく移住者である大豆村沙里さんのカゴバックやアクセサリー、高山市のhugさんのアパレルといった“地元のもの”と、お二人が信頼をおいている“友達のもの”が揃います。
そして、「人や情報が交わる場所になれば」と併設されたレストランでは、白川村の山菜やきのこ、自分たちの畑で手がけた野菜や、近隣で作られた無農薬野菜、村のブランド豚・結旨豚を使った身体に優しい発酵食を提供。調味料は、白川村荻町にある白川郷HAKKO堂さんの味噌や麹を活用し、ケチャップやマヨネーズも手作り。地酒からナチュールワイン、海外からセレクトしたクラフトビールなど、お酒も豊富に並びます。
さらに、音楽や、食、お酒が楽しめるイベントも不定期で開催。
白川村にこれまでなかった、見た目も味も洗練された料理や非日常感がありながら居心地のよい空間は、観光客はもちろん、幅広い年代の村民を惹きつけ、今までにない出会いや交流が生まれています。
白川村の子どもたちが、村の可能性に気づく場所になれば
「ものが溢れている場所はもちろん便利に間違いないですが、ないならないなりに、何でもできます。やりたいことがあって移住したんだから、楽しまないともったいないですよね」とお二人。
当初は「見られている」感覚だった村民との距離感も、店を利用してもらい、自らも地区の運動会や、どぶろく祭といった地域の行事に参加する中で、「見守られている」認識に変わったと語ります。
白川郷学園から中学生の職場体験を受け入れも行い、中には「ここで働きたい」と手をあげる高校生も。
「白川村は将来の選択肢が少なくて村を出てしまう子どもたちも多いですよね。でも、この村にあるものは素晴らしくて、街に出なくてもかっこいいことがいくらでもできるのだと、この場所から伝えられたら最高です」。
白川村の未来を明るく変えていく、新しく力強い風が、今、吹き始めています。
稲葉健治さん、翔子さん
愛知県出身。共に名古屋市で飲食業に従事した後、2023年4月に白川村に移住。温泉ホステル&発酵レストラン&ガレージサウナ「サルガバンバ」を営む。