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2022.11.22

【郷暮らし手帖】どぶろくの徳利詰め


白川村で9月の終わりから10月にかけて、村内5地区で行われる行事「どぶろく祭」。豊饒の秋を祝う、「天下の奇祭」とも言われる歴史と伝統あるお祭りで、神に捧げられる「どぶろく」が人々にも振る舞われます。

その主役となるどぶろくを村民や来訪者に提供できる形にするのが「どぶろくの徳利詰め」です。

新型コロナウイルスの影響から、ここ数年どぶろく祭は振る舞いの中止を余儀なくされていますが、この徳利詰めは毎年欠かさず行われています。

今回取材に伺ったのは、世界遺産白川郷合掌造り集落がある白川村荻町地区。

毎年10月14日、15日にどぶろく祭が開催される荻町地区では、祭りを数日後に控えた平日の晩、3日間かけて徳利詰めを行います。

場所は、白川八幡神社の脇にある建物です。

参加するのは、氏子総代(うじこそうだい)、今年の「鍵取り」(白川八幡神社の鍵を預かり、神社の管理を行う。荻町内の7つに分けられた組が輪番制で担当する)の西下組の村民、そしてどぶろく造りを任う、酒造りの最高責任者である杜氏さんです。

参加者の皆さんが仕事を終えた夕方6時半から、徳利詰めは始まります。

総勢16人ほどが役割を分担し、手際良く作業されています。

徳利を箱から出す人、徳利に成分表のシールを貼る人、タンクから徳利にどぶろくを詰める人、専用の器具で徳利の栓を閉める人、外箱を組み立てる人、箱詰めする人、箱を段ボールに詰めていく人…。

和気あいあいとコミュニケーションを取りながら、次々とどぶろくに満たされた徳利が箱詰めされたダンボールが積み上がっていく様子は、まるでこれも一つのお祭りのような活気に満ちています。

今年の荻町のどぶろく祭では振る舞いが行われないため、平時の9900本より少ないそうですが、それでも8500本もの数になるそう。初日だったこの日のノルマは2800本ほどです。

現在杜氏を務めるのは、野谷信二(のだにしんじ)さんと川田晋也(かわだしんや)さん。

白川村でどぶろく造りを担う杜氏さんは、基本的には引退となるまで長年勤めあげます。お二人は前任者から声をかけられ、同時期に杜氏となり、以来10年以上荻町のどぶろく造りを任されているのです。

野谷信二さん

どぶろく造りが始まるのは、1月半ば。荻町では3日間かけて「鍵取り」となった組の村民と共に、洗米と米を蒸す「仕込み」を行います。その後数ヶ月は、毎日早朝や仕事を終えた夕方に、タンクに入った米と麹、水をかき混ぜます。

「仕込んだばかりは米がすぐ水に浮いてきてしまうので、それが均一に混ざるようにかき混ぜます。米が水を吸って重く、固くなっているので、なかなかの重労働ですね」と野谷さん。

川田晋也さん

発酵が進むとまず現れるのは荒い気泡。それを毎日かき混ぜていくと次第に細やかな気泡に変わっていきます。

こうして、どぶろくが出来上がるのは夏頃。この時期になると、温度調整ができるサーマルタンクにどぶろくを移し、数日おきに様子を確認して徳利詰めの時を待ちます。

白川村でどぶろく造りを担う杜氏さんは、仕事としてどぶろく造りを任されているわけでなく、地域の奉仕活動にあたる取組みとして活動されています。お二人も杜氏となるまでは酒造りは未経験でした。

前任者が当初苦労した経験からデータをまとめ、それを引き継がせてくれたお陰でずいぶんやりやすかったとお二人は語りますが、それでも、別の仕事をしながらどぶろくを造り続けるのは容易なことではありません。

「1年のほとんど、どぶろくのことを気をかけているのはなかなか大変ですね。仕込みをしたばかりのタンクをかき混ぜるときは、何年たっても緊張します。菌によってどぶろくの出来は左右されるので、仕込み前から徳利詰めが終わるまで、麹菌よりも強い菌を持つ納豆は食べられないんですよ」と川田さん。

そんな苦労があっても、毎年村民や、どぶろく祭に訪れる村外の方が楽しみにしているどぶろく造りに携わっているという喜びは大きいそう。荻町のどぶろくは、毎年安定して「甘くて滑らかで飲みやすい」と評判です。

「昔からどぶろく祭が好きで。一時期村外にいたんですが、どぶろくがなかったら村に戻って来なかったと思います。毎年この時期に、みんなができあがったどぶろくを飲んで“今年もうまいな”って言ってくれるのが本当に嬉しいし、苦労して作る甲斐があるなと思います」と川田さん。

そして、杜氏さんがどぶろく造りの中心を担いながらも、徳利詰めや仕込みは地域の“結”の力が欠かせません。

「私たち二人だけでは、とてもどぶろく造りの全ての作業を行うことはできないです。地域の皆さんとの協力でできあがります。“結”があってこそ、毎年おいしいどぶろくができるんです」。テキパキと作業を続ける地域の方々の姿を見ながら、そう語ります。

***

残念ながら2022年の荻町のどぶろく祭は神事のみの催行となり、参拝者や遠来の客へのどぶろくの振る舞いは行われませんでした。そんな年であっても、どぶろく造りと徳利詰めは毎年続きます。

来年こそは、村民の力が結集したどぶろくをおいしくいただきたいですね。

どぶろく祭

[白川八幡宮]10月14日~15日:荻町合掌造り集落南

[鳩谷八幡神社]10月16日~17日:R156白山白川郷ホワイトロード入口交差点

[飯島八幡神社]10月18日~19日:道の駅白川郷正面

*毎年の開催状況は白川村役場のWEBサイトをご覧ください

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