茅の自給自足をめざして
自分たちの手で刈る苦労と喜び
今も育まれる「結」の精神
白川村では秋の稲刈りが終わり、本格的な冬がやってくる頃、合掌造り家屋の茅葺き屋根の「茅」を収穫する「茅刈り」が行われます。例年、イベントとして村外者とともに「秋の一斉茅刈り」を開催していますが、今年は新型コロナウイルス感染拡大防止に配慮し、村民だけでの茅刈りとなりました。
茅の自給自足をめざして

合掌造り家屋の屋根材に使われる「茅」は、人の背丈よりも高い全長2mにまで成長するイネ科の植物。
屋根材に選ばれるくらい風雨に強く丈夫な植物で、刈り取るにはたくさんの人手が必要です。
この日は村内の茅場に子どもから大人まで42名が集まりました。

非常に重労働な茅刈りは人手不足が問題となっており、実は村内の合掌造り家屋の屋根材の多くは村外から仕入れているのが現状です。
しかし、世界遺産合掌造り集落を自分たちの手で守るために、村としてはできる限り茅を自給したいという思いがあります。
毎年行われている、秋の一斉茅刈りは茅の自給自足のための地道な一歩なのです。
自分たちの手で刈る苦労と喜び

村民の中にも茅刈りが初めてという方もいたため、まずは茅葺き職人による茅刈りレクチャーからスタート。
茅の中にも様々な生育状況のものがあり、まずは茅葺き屋根の材料として適切な茅を見極めることから始まります。
よい茅とされるのは、人の背丈よりも少し高い2mほどの長さで、真っ直ぐに伸びる茅。
折れ曲がってしまっている茅や生育が足りない茅は収穫せず、来年いい茅が生えてくるよう全て刈り払います。

よい茅を選んだら、一方の手で茅を抱き抱えるように持ち、茎に刃を当てながら、力を入れて刈り取ります。
熟練の職人は、簡単そうに次々と刈り取っていきますが、初心者の中には苦戦する人も。
丈夫な植物だけに刈り取るのにも一苦労です。

両手で抱きかかえられるくらい刈り取れたら藁縄で束ねます。コツは下から5分の3の位置で縛ること。

縛る位置を意識することで、乾燥させるために茅の束を立てた際に、茅の根元側が広がり倒れにくくなるのです。
刈り終わった茅が立ててあると、遠くからでも一目でわかり、スムーズにトラックで保管庫へ運ぶことができます。

黙々と作業を続けることおよそ6時間…この日は724束の茅が刈り取られました!
茅はトラックの荷台に積まれ、茅の保管庫へ。
乾燥させるために一度倉庫に保管されます。
その後職人さんの手で雑草などが取り除かれ、翌年の合掌造り家屋の屋根の葺き替えに使われるのです。
今も育まれる「結」の精神

茅刈りを一度経験すると、屋根の葺き替えをするために十分な茅の量を確保するには、一家族が総動員で刈ったとしても必要な量には到底及ばないことが想像できます。
そのため、白川村には「結(ゆい)」と言われる相互扶助の精神が古くから根付いており、茅刈りも、茅葺き屋根の葺き替えも、村民が一体となって取り組んできました。

世界遺産白川郷が変わらぬ姿であり続けているのは、その背景にこうした村民の地道な活動や白川村ならではの結束したコミュニティがあるからこそ。
コロナ禍のなか村民だけで行われた今年の茅刈りは今も結の精神が育まれていることを物語っています。
茅刈りを終えた村民の表情は爽快感に溢れるものでした。
茅刈り
開催日:2020年11月14日(土)
場所:飯島脇谷茅場
主催:白川郷荻町集落の自然環境を守る会・白川郷合掌家屋保存組合・白川村教育委員会